入り込みすぎる話

麻雀に限らず将棋や囲碁などでもあるヒューマンエラーの一手。

Mリーグでも別の牌を切ってリーチをかけてノーテンリーチにしてしまうなど、人為的なミスは稀に起きる。

ネット麻雀でも同じような打牌ミスは度々発生する。エイムミスのような打牌ではなく、自分で形や入った牌を勘違いして切ってしまう現象だ。

 

これがなぜ起きるのかというと、勝又健志曰く「入り込みすぎる」という表現があった。

この表現と感覚はよくわかる。

「打牌ミスするときって大体が入り込み過ぎちゃってるんだよね。集中しすぎちゃって目の前のことが見えてないことがある。だから一歩引くというか、ちょっと自分を俯瞰に見てるぐらいがベストなんだと思う」

 

将棋などでも10手先まで読んで盤面を想定することはあるが、そうなると頭の中と現実と2層の盤面が生じる。

「入り込み過ぎている」と、この脳内の盤面を見て指してしまうのだ。これがミスの原因になる。

麻雀だと233m、55s、56pから、「リーチするなら14mリャンメンが出やすい理想形だ」「聴牌が入ったら即リーチだな」「下家に2mが危ない」と思っているところに、5sが入って3m切りリーチをしてしまう、といった形だ。

 

これも勝又の言っているようにイメージ内の手牌に入り込み過ぎた結果として起きる。早打ちというか、決め打ちというか、「やってやるぞ!」と意気込んでいるときほどやりがちなミスである。

局面が切羽詰まっていき、「早く先制を取りたい!」「この形になったら速攻でリーチだ!」と意気込んでいるとやってしまう。

だからこそ「一歩引いて」「俯瞰で」「冷静に」といった対処が必要なのだ。

 

とはいえ勝負ごとに関わっている者としては、こういったエイキサイティングな展開になるとビシッ!と決めたい気持ちも解る。

寿人や勝又の早打ちなど見ていてもカッコいいものだ。(勝又の早打ちは思考時間を省くことで相手に待ちの変化などを読みにくくさせる狙いがあるようだ)

ただ、だいぶ前に記事にしたが卓上遊戯の多くは思考時間が確保されており、即決する必要はない。

 

自分の手前まで敵が迫っていても焦って即決する必要は無いのだ。

むしろじっくりと時間を使って思考する自由が与えられていることこそが、多くの卓上遊戯における特徴のひとつである。

実際の戦場であればその猶予は与えてもらえない。

 

・イメージ上の盤面

私の体験で言ってしまえば、例えば複合系の多面張などで「萬子は何が入ってもほぼ聴牌だな」などと思っているところで一枚萬子を引いて、「じゃあこっちの筒子は雀頭固定だな」などと思って切ると聴牌していない・・・といったことがある。

あとはオりながらの七対子で「危険度の少ないほうを切って聴牌したい・・・」と考えた結果、ツモってきて重なった牌を切るのはよくやってしまう。

 

思考の雑さもあるが、やはりいったん手を止めて手牌をゆっくりと眺めればいいのだが、それをやらないために後からミスに気付くのである。

または複合系や受け入れ枚数を暗記しておけば、すぐに「この形で、この牌が入っても聴牌にならないぞ」と気づけるようにするかだ。

そうすれば少なくとも私のようなミスは防ぎやすい。

 

さらに類似したミスとしては「9sを引いたのに6sだと思って、暗刻ができたと勘違いしていた」といったこともある。

放送対局の実況解説でも好配牌や勝負手になると「123の三色できてますよ!」と興奮気味に語るのだが、よく見ると「萬子は223で聴牌していないですよ」といったこともある。

これもやはり脳内に理想形があって、現実もそれに即したものに見えてしまうという脳のバグだろう。

 

もちろん6sと9sなど混ぜて並べるとパッと見は間違いやすい牌というものもある。

萬子も二三三などはちょっと見分けにくいところがある。

リアル卓だと理牌をあえて崩していることもある。組み直すと見間違えていた、ということもあるだろう。ただ、これも形式としては自分の脳内に理想形があって、手牌がそれに見えているという状態だ。

 

勝負に入り込む、集中するというのはコンディションが良い状態でもあるが、入り込み過ぎても駄目だというのは難しいものだ。

スポーツでも背後に感じる気配をポジションニングから、いつもその位置にいる味方だと勘違いしてパスを出してしまう、といったミスは起きる。

やはり脳内に理想形があり、それが現実になっていると思い込んで起きる。

 

スポーツなど展開の早い競技であれば即決のアドバンテージは大きいが、やはり卓上遊戯は一度ゆっくりと一呼吸おいて、俯瞰で見ることが必要だと思う。それが許される形式であるゆえに。

先日も鈴木大介がリーチの前に深呼吸をするなどの動作を見せていた。

勝負に熱くなってしまう性質であり、思考力があり、先の展開を読む力があるゆえに陥ってしまう罠。

それを一度俯瞰で見ることが誰しも必要になるのだろう。

 

とはいえ・・・、そのときになると「よっしゃ!やったるで!!」と興奮状態になってハッスルしてしまうのだが・・・。