映画の中にはギャンブル自体をテーマとして取り上げたものもあれば、シーンや演出として登場することもある。
ワンシーンの演出で好きなものは『ロック・ストック・トゥー・スモーキング・バレルズ』の3カードポーカー。
主人公は四人の若者。そのうちの一人が天才ギャンブラー(特にポーカー)。洞察力に優れた人物で、相手の感情や思考を仕草や表情の微細な変化から読み取って勝負するタイプ。
しかし、あまりの強さが噂になっており、その日行った賭場では、胴元のオジ様に隠しカメラのイカサマを仕込まれてしまい、あえなく撃沈。
コールとレイズを繰り返した結果、賭け額は膨れ上がり、相手はとうとう父親の店まで抵当にしろと言い出す。熱くなって挑発に乗った主人公側は勝負を受けてしまうが、相手のカードが出されるたびに表情がクローズアップされ、瞳孔が開き、最後はカメラが揺れるような視点で退場していく。周りの声も徐々に耳に入らなくなり、騒音のようにBGMがけたたましく鳴り響く。
店の外に出たところで主人公は嘔吐。
カイジの「ぐにゃあ・・・」もそうだが、感覚的にはとてもよくわかる(わかるな)。
あの演出の入り込み方は相当なものだなと思う。
・映画『シンシナティ・キッド』
アメリカで伝説のギャンブラーとして名高い小説。その映画化。
ネタバレになってしまうが、この作品で主人公は最後の賭けに負けるのだ。
ただ結末がバッドエンドかは別の話だが、大物ギャンブラー同士の戦いでライバルと一騎打ちになり、そして敗れる。
だが、この作品は人々の支持を受ける。
自分は初見でこの作品に触れたときに「なんでこの展開で主人公が負ける!?」と思ったものだ(若いな・・・)。
単純なエンターテイメントであれば主人公は勝って名声を得ただろうが、おそらく作者はギャンブル好きとして「どんな名手であれ、ツキがなければ負ける側になる」という事実を目の当たりにしてきたのだろう。
非エンターテイメントな展開でありながら、良き作品として知られているのはこのリアリティゆえだと思っている。
実は世の中の色々なことにギャンブル要素は関わってくる。努力の末に人生が順風満帆に見えても、そこには多少を問わず「運が良かった」という事実が含まれるのだ。
大金を手にしても事故に遭っては意味がない。良き家庭に入れても病に侵されては辛くなる。才能をもって生まれても師に恵まれなければ芽吹くこともない。
我々の生活は常にそういった運要素に囲まれている。
その中で勢いのある時期、ノっている時期というのは明確に存在する。
それはまるでギャンブルで「何をやっても勝てる」時期のように。
だが、もちろんそれが永劫に続くことはまずない。
誰でも人生で、ギャンブルをしていなかったとしても、シンシナティ・キッドの立場を知ることができるのだ。
「この間までは上手くいっていたのに、昨日からはまったく駄目だ・・・」
キッドの物語は今でいえばオカルトな「運」の考え方だが、それがいつか上向かなくなるのは事実だ。
キッドが実際に名手で、ポーカーで間違った手順を踏まないプレイヤーだったとしよう。
だが、それでもある日から不思議なほどに勝てなくなるのは、麻雀打ちならば理解できるはずだ(したくねえ・・・)。
追記:
この記事を書くにあたり、原作のシンシナティ・キッドも含めて調べたところ、どうも映画だけでもEDに違いがあるらしい。
キッド負けて、そのまま終わるVHS版、その後も少し続きがあるDVD版。
自分はDVDで見ていたのだが、VHS版も「無常さが良い・・・」というファンもいるようで、それもわかる。
古い作品で原作は電子化もされていないため、紙の書籍を当たるしかないが、今は忙しいので図書館も行けないし、通販で買った本が届くのを待つしかない。
ただ原作も勝負の後の描写はあるようだ。
追記2:
届いた原作を読むとDVD版の終わりに近い。
恋人、というか情婦のもとで過ごして敗けのキズを癒すキッド。
ひと月ほど酒もカードも断っている。
カード仲間や情婦に促されて勝負の熱を取り戻すキッド。
地元で大きく稼ぎ、再びライバルとの勝負に挑む。
だが二度目の敗北を喫する。
その後、キッドが復帰するのが難しいことを示唆する。
だが復帰できなかったとも書かれていない。
勝負の熱が消えたとも書かれていない。
キッドの未来は読者の中というわけだ。
・・・
私はDVD版の終わりで、情婦と共に賭場を去るキッドはギャンブラーとしての人生を終えて、普通の道を歩くのだと思っていた。
ギャンブラーとしてのツキに見放されても、自分を思ってくれる人が残ったのだと。
しかし原作では周囲から「キッドはキッドでなければならない」という使命感を与えられる。キッド自身も勝負を振り返って「あんな手を打たなければ!」と熱くなる。
そして二度目の勝負。敗北。
その後は描かれなくともキッドは生粋の勝負師なのだ。
彼がカードを手放す日は来ないだろう…。